来信

この手紙はいったい誰からなのかしら。

美華は配達ロボットワイルドグース1号が届けてきた一通の手紙を不思議な気持
ちで眺めた。

合成墨と合成紙しかしらない美華にもちょっと懐かしい匂いのするその便箋。封
筒には送り主の名前どころか宛先さえも記されていない。

なんであたしのところに届いたんだろう。

そこには幼い女の子が書いたかのような、けなげではかなげでそれでもひたむき
な文字でこう一言。

「がんばって」

言葉自体は古めかしい中世漢語であったが世界標準語エイジアンズで教育を受
けている美華にとってもその程度は理解できた。

誰かを勇気づけようとしているのだろうか。

じっと見つめているうちなぜか美華はそれが自分に宛てられたものであるかど
うかにかかわらず胸が暖かくなってゆくのを感じた。

この子はもしかすると・・。

美華はいつのまにか見知らぬ差し出し人に親しみを覚え始めていた。

手紙を出したこの子は未来を見ることが出来るのかもしれない。幼いながらも
人が生きてゆくことのいろいろを知ってしまった為に、誰かに何かを伝え励ま
さずにはいられなかったのではないだろうか。

たった一通の手紙、たった一つの言葉が美華にさまざまな思いと想像をいだか
せた。

そして手紙はその後も続いてやってきた。

同じように差し出し人も宛先も記されていない封筒と便箋にやはりたった一言。

「まけないで」

美華がなにか困難に出くわしたり落ち込んだりすると決ってその手紙は届けられ
たのだ。

「あきらめないで」 「しんじつづけて」

そのたびに美華は元気づけられとてもやさしい気分になれた。

どこの誰が送ってくれるのか知らないけれどほんとうにありがとうね。美華は名
前も知らないその幼い少女..と彼女はすでに想像を確信していた、に心の中で
感謝したのだった。

そんなある日、美華の家を貧しい旅の道士が訪れた。

やさしい美華が心のこもったお布施を用意すると道士は大層喜び、彼女にこんな
事を教えてくれた。

「気だてのよいお嬢さん。未来は自分でつくりだしてゆくもの。誰にも占うこと
など 出来はしない。けれどお礼にあなたの前世の様子を教えてあげよう。

 あなたは生まれかわる100年ほど前の人生でも人助けがお好きだったと見える。

 そう、子供の頃から手紙を書くのが好きだったようですね、それも少しかわっ
てて例えば宛先も書かずに誰かを励ます手紙を書き、どこかの誰かのところへそ
れが辿り着いてその人が少しでも元気づけばいいと思うような。

 昔昔あなたが出した手紙。今ころどこの誰のもとについてるのでしょう・・。」

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